地唄の解説ー6
   
   
「たぬき」「古道成寺」「芦刈」


地唄「たぬき」

我はこのあたりに住む宮守にて候、毎夜毎夜このところへ古き狸がいて、神殿をあらすほどに、 見つけ次第に討ち取らんと存ずる。お々見つけたぞ、見つけたぞ、鉄砲下し弾薬、火縄を付けて、狙い寄る、狸たまらずかさ、かさ、かさ と這い出て、のふ暫く待ちたまえ、あの岩陰の森の内、男狸がおり申す、夫婦が仲が睦まじく、互いに変わるに変わらじと、言い交わしたる睦言を 身持ちになって見も重く、それをお前に打たれては、腹なるわが子は闇から闇、どうぞ助けてたまわれと、手を合わしてぞ頼みける。 宮守ともに泪ぐみ、人間畜生と異なれども忍愛のなげきかはらじと、鉄砲下し立ち上がれば、狸大きに悦んで命助かる御礼に、我妙たる腹鼓、 只今聞かし申すべしと腹なでおろし座を組んで宮守ほとんど感じ入り、ちいちいぼうぼうの打分は、真の鼓に増さるべし、目出度、目出度目出度と笑うてこそ帰りけれ。


地唄「古道成寺」

昔々この所にまなごの庄司という者あり。かのもの一人の娘を持つ、又其のころよりも熊野へ通る山伏あり、 庄司がもとを宿と定め年月送る。庄司娘寵愛のあまりにや、あれなる客僧こそ汝の夫よとたはむれしをば、おさな心に誠と思ひ、明し暮して御在ます。 其内娘夜更け人しづまりて、衣紋繕い鬢かきなでて忍ぶ夜のさはりはさえた月影ふけ行鳥がね、それにいやなは犬の声、 ぞっとした人目忍ぶ夜は憂やつらや、せき来る胸をおししづめ、彼客僧のそばへ行き、いつまでかくておき給ふ、早く迎えて給われと、じつとせむればせんかたなくも客僧は、 よれつもつれつ常陸帯、二重廻りに三重四重五重、六ッ重七巻まいてはなちはせじとひきとむる。 切るに切られぬ我が思ひ、せめて一夜は寝てかたろ、後程忍びもふすべし。娘誠と嬉しげに一間の内にぞ待ち至る。 其の後客僧、仕すましたりとそれよりも夜半にまぎれて。幸い寺をたのみつつ、暫く息をぞつぎ至る。所へ娘立戻り、ええ腹立ちや腹立ちや、我を捨て置き給ふかや、 のうのういかに御僧よ、何国までもおつかけゆかん死なば諸共、二世三世かけ逃すまじとおつかくる。 折ふし日高川の水かさまさって、わたらべきようもあらざれば川の上下あなたこなたとたづね行きしが、毒蛇となって川へざんぶと飛び込んだり。 センまき辿巻水にうきつしずみつ、紅の舌を巻きたてほのほをふきかけふきかけ、難なく大河泳ぎこし男をかえせ戻せよと、ここの面廊かしこの客殿、くるりくるりと追めぐり、 追めぐり猶怨霊居丈高に飛び上がり、土をうがってたずねける。住持も今はせんかたなく、釣鐘をおろし隠しおく。 たづね兼つつをんりょうは鐘のおりしをあやしみ竜頭を喰へななまきまいて尾を持てたたけば鐘は則ち湯となって、 遂に山伏とりをはんぬ。 なんぼうおそろしき物語。

[解説]岸野二郎三作曲。作詞者不詳。謡曲「道成寺」の後段のワキの語りを原拠とする。「昔々この所に」という唄いだし。途中にくだけた歌詞が挿入され描写的な間奏を含む。


地唄:「芦刈」

名に高き、難波(なにわ)の浦の夏景色、風に揉(も)まれし芦(あし)の葉の、 さはさはさはと音(おと)に聞く。(合)ここには伊勢の浜荻(おぎ)を、よしや芦とは誰(た)が付けし。(合) 我れは恋には狂はねど、恋といふ字に迷ふゆゑ、さりとては白鷺(しらさぎ)の、とどまれ止まれと、 招く手風(てかぜ)に行き過ぎて、(合)またも催(もよお)す浜風に、芦も騒(さわ)だつ機の波、 松風こそはざざんざ。  
解説  「伊勢の浜荻」は、伊勢の浜辺に生えている荻のことであるが、伊勢地方では、アシのことを浜荻というとして、アシの異称としても用いられる。 「よし」は、「善し」と「芦」とを掛け、さらに、「たとえ」「かりに」などの意の副詞「よしや」をも掛ける。「芦」は、「悪し」に通ずるので、これを忌んで「よし」ともいう。 「恋には狂はねど、恋といふ字に迷ふ」というのは、結局「恋は曲者」「恋は思案の外」などと同様、恋が常識では律しきれないどとをいう。 「白鷺の」は、「知ら(ず)」を掛ける。 「手風」は、手を動かすにつれて生じる風。 「ざざんざ」は風ないし雨・みぞれの昔の擬声語であるが、狂言小歌をはじめ、俗謡に用いられる囃子言葉、ないし、それを用いた「ざんざ節」のことをもいう。ここでは、松風が、本来のざざんざであるという。  浄瑠璃では、享保12年(1727)大坂豊竹座初演の並本宗輔・安田蛙文作、初世野沢喜八郎作曲の「摂津国長柄人柱(せっつのくにながらのひとばしら)」の五ノ切の景事を「芦刈笠の段」といい、この部分は、能「芦刈」(四番目物。世阿弥作とされる)の翻案といえる。  井上流京舞では、二世井上八千代がこの義太夫地の「芦刈笠の段」を振付ているが、地歌の「芦刈」も初世八千代によって振付けられている。  他の流では、地歌の方のみで、後半の二上りの「〜我れは恋には・・・」以下の部分のみ舞うことが多い。  
別題「新芦刈」ともいうが、地歌・箏曲で、この曲に先行する「芦刈」という曲名のものはない。能、あるいは、それから出た浄瑠璃などに対して、「新」の字を冠するものかもしれない。 『吾妻の花』より
                                            参照

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